天気は上々。気分は爽快。暑すぎず寒すぎず、季節の変わり目のこの時期は 散歩にはもってこいだ。
穏やかな空気を楽しみながらゆったりと歩く彼女の目的地は、先日見つけた お気に入りの場所。宮殿からは少し離れているけれど、森の中にある 小さなその場所は、空が良く見えるとても気持ちのいい場所だった。

今度、あの三人やタキも連れてきてみよう、きっと気に入るだろうから。そんなことを考えながら 茂みを抜けて目的地に到着すると、そこには先客がいた。
知った顔が三つ。ただしみんな目を閉じて、スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てていた。


二人から少し離れた木の根元に寄りかかり寝ているウツキは、いつもよりも幼く見えた。

ウツキの隣でタキが、小さな身体をさらに小さく折りたたむ様にして眠っている。
ウツキはあどけないタキの寝顔を見ながら、

(ポカポカとした陽気だし、慣れない神仙術であちこちを跳び回っていれば、そりゃあ疲れるだろうな。)

と、心の中で呟いた。


最近は神仙術修行の一環として食料調達がタキに割り当てられた為、タキは朝早くから森の中を駆け回っている。しかし、野兎やイタチ等がそう簡単に獲れるわけも無く、大抵はウツキ達が獲物を捕まえてくる事になるのだが…。
今日は、引っ掻き傷を作りながらもタキが笑顔で雉を抱えて戻って来た。
傷は獲物との格闘の末ではなくて、木の上から足を滑らせて藪の中へと落ちた時についたという事だった――


と、そんな事を、タキが苦労の末捕まえた雉の骨を墨となった薪のそばへまとめながら思い出していると、ウツキはなんだか微笑ましくなった。

「今日は新しい術を教えてやろうかと思ってたけど…。もう少し休ませてやるか」

そう小さく呟くと、ウツキは肩から羽織った布を結び直しながら、今度は向かい側に座ったオタジに話し掛けた。

「ライカが戻ってくるまで馬の世話でもしてよう、オタジ」

「…」

「オタジ?」

「…ん?…ふあぁ、眠っちまってたぜ…」

「なんだオタジまで。おまえは今日、そんな疲れるような事してないだろ」

「なんかさ、あんまり寝た気にならないんだよなー…朝起きても疲れてるっつーか」

「なんだ、体調でも悪いのか?じゃあオタジも休んでろ」

「悪い、そうするわ」

だるそうに横になるオタジを気にしつつ、ウツキは2頭の馬の手綱を引いて森の中へと入っていった。
ウツキは手際良く馬の世話をし終え、オタジに飲ませてあげようと薬草をいくつか摘み取ると、オタジ達の居る場所へと急いだ。


ウツキが戻ってみると、目覚めたタキがこちらに気付いて駆け寄ってきた。

「あ、ウツキさんお帰りなさい。オイラも手伝うつもりだったのに眠っちゃいました…」

「いいさ、今日タキは頑張ったからな。疲れたんだろう?」

申し訳なさそうに手綱を受け取るタキに、ウツキは笑いながらそう答える。

「疲れたのも疲れたんですけど、実は昨夜あんまり眠れてなくて…」

「もしかしてタキも体調悪いのか?」

「いや、オタジさんの寝相が凄くて、何度も起こされちゃったんですよ」

「オタジの寝相…?」

「元の位置に戻してあげてもすぐゴロゴロしちゃって。ウツキさんも何度かお腹の上に足を乗せられませんでしたか?」

笑いながら話すタキとは正反対の表情を浮かべながら、ウツキはポツリと呟く。

「なーんか寝苦しいと思ったら、そういう事だったのか…。一晩中ゴロゴロ動きまわってりゃ疲れるだろうなッ!」

「え?何か言いました?…そういえばウツキさん、手に持ってるその草は何ですか?」

「いや、なんでもないんだ」

ウツキは不敵な笑いを浮かべながらそう言うと、焚火の跡からすっかり冷えた墨を手に取り、寝ているオタジのそばに座った。
タキは不思議そうにウツキの後からオタジを覗きこむと、プッと吹き出した。
オタジの顔には、ウツキによって見事なラクガキがほどこされていたのである。

「ちょっとは反省しろよ」

ニヤニヤとしながら、ウツキは墨をポンと焚火の跡に投げ戻した。

「ライカが戻ってくるまで、ゆっくり昼寝させといてやろうな」

ラクガキされた事にも気付かず、のんきに寝ているオタジを横目に、ウツキはそう言って楽しそうに笑った。